1903年1月4日、1頭の象が大衆の目の前で殺害されました。
そしてその映像は「ある象の電気処刑」とタイトルを打たれコイン式の映画として公開されました。
どうして象が処刑されることとなったのか。
その背景にあったエジソンとウェスティングハウス社の争いとはどんなものだったのか?
そしてアメリカにおける「電気の処刑」とはどんな経緯で成立していったのか。
これらについて説明していきます。
トプシー処刑の事実

冒頭の通り、ある1頭の象が大衆の目の前で殺害されました。
象はなぜ殺されなければならなかったのでしょうか。
また、ある1頭の象の殺害から見える、この当時のアメリカの電気をめぐる状況について説明していきます。
トプシーとは?
処刑された象の名前、それはトプシーです。トプシーはメスのアフリカ象で、1885年にアメリカに連れて来られました。
アメリカに連れて来られて以降、アダム・フォアポウ・サーカスにて飼育されていましたが、気性が荒いことが問題視されていました。
実はトプシーを担当していた調教師数名が怪我をさせられていたのです。
しかしこの当時のサーカスにおいて象の存在は必要不可欠なものでしたので「気性は荒いけれど処分はしない」と言う状況が続いていたのです。
その状況が変わってしまったのはトプシーが殺人を犯したから。
1900年には立て続けに飼育員二人を殺害。
そして1902年に3人目となる殺人を犯したことからサーカスにおける象の商品価値に固執していたサーカス側はさらなる被害を恐れてトプシーの処分を決めます。
トプシーはアダム・フォアポウ・サーカスから、その当時ニューヨークのコニー・アイランドに建設中であった遊園地ルナ・パークに譲渡され話は終わったかのように見えました。
ルナ・パークでは見せ物としてではなく労役に使われたトプシー。
気性の荒さはそのままで人の指示に従わず、再度人に怪我をさせる事態に発展してしまいます。
そこでトプシーの、というよりも象の牙、皮革を買い取りたいという希望者が現れたことからルナ・パークはトプシーを殺して売却してしまおうということになってしまったのでした。
トプシーはどのように処刑されたのか?

当初、トプシーは絞首刑が予定されていました。
けれどこの計画に対し、動物虐待防止協会が不必要な苦痛をトプシーに与えてしまうとして反対。
別の計画が立てられることになりました。そこで選ばれたのが「電気処刑」です。
その名の通り、電気を用いて感電死させることが選ばれたのです。
トプシーの刑はほとんど人のいない開園前の遊園地で執行されました。
技術者がトプシーの足に電極をつけ電気を流すと体から煙が上がりトプシーは倒れたと、当時の報道は伝えています。
この処刑の模様は冒頭にも記した通り、キネトスコープと呼ばれるコイン式の映画として人々に公開されました。
現在でもYouTubeでその様を見ることができます。トプシーの死体はその場で解体され、頭はトロフィーとして皮は商品加工用にされたのです。
内臓は動物学研究に、足は傘立てにするためにそれぞれ売却されてしまいました。
象の処刑は珍しいことなのか
トプシーがその名を現代まで残したのは「映画」として、その場に参加することのなかった人々にも映像が提供されたことが大きいでしょう。
では、アメリカにおいて象を処刑するといった行為はトプシーだけに限ったことだったのでしょうか。
残念ながらそうではありません。
電気処刑された象といえばトプシーなのですが、そのほかにも処刑された象は存在します。
例えば、アメリカ南部を中心に活躍していた中規模サーカス、スパークス・ワイルド・フェイマス・ショーでは1916年にメアリーという名の象が飼育係を殺害したとして絞首刑に処されました。
また大変悲しい事実ではありますが、20世紀初頭だけでなく、1995年にも逃亡しようとした象が射殺されるという事件が起きています。
どれもサーカスという特殊な場所で起きた事件です。
また「処刑」という行為自体も現代の感覚から言うとひどく残酷で、特異なことであると筆者は思います。
ただ、元来野生動物であった大型動物の象と付き合うことは非常に難しい、それは揺るがない事実なのでしょうね。
見せものとしての処刑

実は人類史において「処刑」は長きにわたって人々の娯楽でした。
こう記すと驚きを覚える人も少なくないでしょう。
例えば18世紀イギリスにおける処刑、特に一番処刑回数が多かったタイバーン処刑場では処刑が行われる日を国民の公休日としていました。
同時に縁日「タイバーン・フェア」の日でもありました。
タイバーン・フェアでは犯罪者が刑場まで歩く様を喝采や罵声と共に見送り、「殺人はなんといっても第一に大衆娯楽だったのだ」と言わしめるほどだったと言います。
また中世の悪名高い「魔女狩り」もお祭りのような様相だったと言いますから、善悪は置いておくとして、処刑とは人々の興奮を掻き立てるものの1つなのでしょう。
もちろん、人を処刑するのか動物を処刑するのかで意味合いは全く変わってきてしまいます。
しかし、トプシーにせよメアリにせよ人の目に触れる形で処刑を実行したということから分かるように、それぞれ処刑に値するとされた理由はあるにせよ、なんらかのエンターテイメントとして処刑されたのではないかと思います。
ただ、トプシーが人々の目に触れる形で電気処刑に処せられたと言う事実は、単にエンターテイメントとしてではなく、他の意味を持つと推測されます。
実はこの時代、象のトプシー以外にも電気で殺害された動物は存在するのです。
実験台として殺されたトプシー
それはエジソン社による「交流電流がいかに危険なものか」を示すための実験パフォーマンスとしての殺害でした。
エジソン社は、ライバル関係にあったウェスティングハウス社と電気の仕組みを巡って争っていました。
電気の中でも「直流」を推したのがエジソン社。「交流」を推したのがウェスティングハウス社です。
エジソン社はウェスティングハウスが推す「交流」を危険なものであると人々にイメージさせるために動物を「交流」電気で殺す実験を多数行いました。
1888年7月、コロンビア大学で行われた実験では、ダッシュと呼ばれた約34.5キロのニューファンドランド犬の雑種が聴衆の面前で電気を流されて殺されました。
ダッシュは一例に過ぎません。
何頭もの犬、仔牛、馬などが「交流電流がいかに危険なものか」を示すために殺害されたのです。
トプシーの殺害についてだけいえば、エジソン社対ウェスティングハウス社の電気をめぐる戦いから少し時間が経っているので、必ずしも「交流の危険性を示すためだけ」に殺害されたものではないかもしれません。
ただ、何か悪いことをしたからではなく、人間の勝手な都合で多くの動物が電気処刑されたという事実は間違いないと言えるでしょう。
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